【コロナ禍とポーランドの有給休暇】ポーランドでは勤務期間に応じて年間20日間ないし26日間の有給を取得する事が労働法典で義務付けらている。コロナにより在宅勤務(praca zdalna: プラーツァ・ズダルナ)が導入されてから、在宅なのに有給を消化する事が推奨されている。
筆者が異変に気が付いたのは今週の月曜、車もまだらなワルシャワ市街の目抜き通りをドライブしている時だった。人気ラジオ局のRMF FM局では「コロナのさなか、どういう風に過ごしているか」リスナーから電話を受け付けていた。リスナーの一人が、「在宅勤務なのに有給を2週間も取っている」と語った。
その時にピンと来たのが、「未消化有給引当金」(rezerwa na niewykorzystane urlopy: レゼルヴァ・ナ・ニェヴィコジスターネ・ウルロープィ)の存在だ。ポーランドでは、労働者の権利として、毎年、既定の20日間ないし26日間の有給を得る権利があり(労働法典152条)、未消化の有給がある場合、その次の年の9月30日までに「雇い主が労働者に未消化分の有休を与えなければならない」事とされている。
最高裁の判決でも、「雇い主は未消化有給の利用時期については労働者と同意を形成する必要はない」(2003年9月2日付および2005年1月25日付判決)、「雇い主は、労働者が合意しない場合でも、未消化有給の取得へと労働者を送り出すことができる」(2006年1月24日付判決)などがある。
雇い主が有休を与えられない場合、会計帳簿上には、未消化有給引当金という項目が現れ、会社が使えない現金が増えてしまう。そればかりか、「労働者に有給を与えなかった場合、労働者の有給期間を不法に減らした場合、雇い主には1000ズロチ(2.7万円)から3万ズロチ(81万円)までの罰金が科せられる。
この罰金は、国家労働監督局(PIP)により、人事部長や取締役など「会社の中で金がありそうな個人」に科せられ、個人の口座から国に納めなければならない。実際に罰金を支払った経験のある経営層も相当の数に上る。
今年1月にはポーランド二大労組の一つである「全ポーランド合意労組」(OPZZ)が、有給を35日間に延長することを提唱し、経営者団体が強く反発する場面がみられた。
これに対し、労組側は、「日本や北欧諸国の例が示すところでは、よく休息をとった労働者はしばしば生産性の向上をもたらすので、(経営者団体が言うほどには)コスト増とはならない」と主張し、「日本ではある情報系の巨大企業が期間限定で週4日労働制を試行したところ、生産性が40%も上がった」と、おそらく日本マイクロソフト社と思われる事例までが紹介されていた(1月20日付TVNニュース)。
その後、有給35日制の議論はコロナの影響もあってか鳴りを潜めているが、いずれにせよ、ポーランドでは、ある程度以上の規模の企業になれば、年間有給を取得しない場合には、労働者側が「会社に迷惑をかけている」として責められることになる。
35日有休を提唱しているOPZZの幹部とは、友人の誕生日パーティでたまたま知り合い、話し込んだことがあった。彼曰く、「ポーランド経済の問題は中小企業が多すぎることだ。大企業が経済に占める比率をもっと高めていかなければ、労働者の権利は強化されない」という。
本人は組合専従の弁護士で、特に社会主義イデオロギーに傾いているというようにも見えなかった。しかし、大企業であれば、足腰がしっかりしているので、労働者の権利が守られやすいに違いないという発想には、どことなく、社会主義時代の「親方国営企業」体質を思い起こさせるものがあった。彼にとっては、会社は外国資本であっても国内資本であっても本質的な違いはなく、会社のサイズが重要という事だった。
ポーランドで一体全体、本当の意味で中小企業の振興という発想が生じる事は今後あるのだろうか。
参考:
https://www.rp.pl/Rachunkowosc/306219986-Kiedy-tworzyc-rezerwy-na-niewykorzystane-urlopy.html
https://tvn24.pl/biznes/z-kraju/35-dni-platnego-urlopu-propozycja-opzz-ra1000768-4495113
https://gigazine.net/news/20191208-economics-of-four-day-work/