反ロ派として知られるレフ・カチンスキが大統領に就任してから、ロシア側による政権揺さ振りとも取れる、ポーランド産食肉の輸入禁止措置(11月10日)、農産加工品の輸入禁止措置(11月14日)が相次いで発令された。

ロシア当局は、「ポーランド産の食肉が、ロシア連邦が定める衛生基準を満たしておらず、偽の検疫証明書を用いての輸出が激増している」ことを理由として挙げている。これを受けて、ポーランド当局は、調査委員会を設置すると共に、11月24日付けで欧州委員会に対して全EU加盟国がロシアに対して報復措置を取るよう要請する構えを見せている。

ここ数年、ポーランド・ロシア関係は冷却化しており、ドイツ・ロシア間の海底ガスパイプライン建設の合意(建設費が安く上げるポーランド経由の意図的な回避)、アウシュヴィッツ強制収容所開放60周年式典へのプーチン・ロシア大統領の「遅刻」、第二次大戦中にポーランド人将校・インテリ層がソ連当局により虐殺されたカティンの森事件捜査を巡るロシア側の非協力的態度、クファシニェフスキ現ポーランド大統領が石油精製所の民営化を巡ってロシア企業(ルク・オイル)から収賄を受けていたのではないかとの疑惑(オルレン・ゲート)などの諸問題が一挙に噴出している。

さて、悪化の一途を辿るポーランド・ロシア関係を尻目に、冷戦崩壊後、ドイツ・ロシア関係は益々、相互連携を強化しているように見える。独・露の両大国に挟まれ、歴史の辛酸を味わい尽くしたポーランドにして見れば、この構図は過去の忌々しい記憶を思い起こさせるものであるかも知れない。
ただし、ドイツがロシアと関係強化を図る背景には、ロシアの潜在的な経済力を見越しての「先行投資」という側面があることを見落としてはならないだろう。
確かにロシアという国は、何かにつけて、相手の弱みに付け込んでくる「付き合いにくい国」ではある。しかし、カチンスキのような根っからの反ロ派が大統領に就任しても、ロシアをなだめつつ、ポーランドにとっての利益も引き出すという、ありうべき対ロ外交の指針が見失われてしまう懼れが存在することを、今回の一件は暗示しているようにも思われるのである。