本日7月7日午後8時(日本時間8日午前3時)マルチンキェヴィチ首相が辞意を表明した。今のところ、後任は、カチンスキの実兄に当たるヤロスラフ・カチンスキが就任することが有力視されている。

首相辞任を受けて、早くも、同国通貨ズウォティは主要国通貨に対して、軒並み下げ始めている。
明らかにマーケットは、今回の辞任を悪材料として見ている。

予てより首相は、先日辞任したギロフスカ蔵相を高く評価しており、蔵相の辞意表明後も彼女の慰留に向けて東奔西走していた。
もとより、ギロフスカ蔵相はリベラル派として名を馳せ、法人税率、所得税率、VATを一律、15%とするリニア税制の導入をいち早く提唱するなどしていた(詳しくは、本ブログ1月15日号、2月23日号参照)。
外資発言が波紋を呼んで辞任に追い込まれたルビンスカ蔵相の後を受けて、今年1月に蔵相指名を受けた際には、リニア税制案の撤回が条件とされたが、彼女自身は、所得税率の最高税率の引き下げなどを含む税制改革案を何度もカチンスキに上程していた。

カチンスキは口では税制改革の必要性をいつも唱えるが、実際には、現状の維持を望んでおり、ギロフスカの蔵相任命も自らの改革者としてのイメージを内外に示す以外の意味はなかったと思われる。
カチンスキという男の政治のやり方は、「何もやらない」という一言に尽きる。彼は、政権構想も発表しないし、政権を特色付けるキャッチフレーズも一切出さない。何もやらなければ、自分の地位も安泰であるし、そもそも政敵に付け入る隙を与えることもないと考えている。国会で右派(極右)少数政党と連立を組んでいるのも、自分よりも弱い相手と連立を組み、折を見計らって、右派政党と何らかの軋轢が生じているかのような場面を演じて見せることで、マスコミの注意を惹きつけようとしているために過ぎない。
そんなカチンスキにとって一番困るのは、閣僚がまじめに政策を語ってしまうことである。政策論議に火が付いてしまっては、自らの政治のやり方が通用しなくなる。

ギロフスカ蔵相を辞任に追い込んだときも、ルストラツェ(「鏡」という単語から出た言葉で、共産主義時代に秘密警察に協力していたかどうかを審理する制度。現在、ポーランドチェコなどでは、しばしば政敵を粛清する手段として使われている)を持ち出してきた。
共産主義時代に後ろめたい行為をしていた人など、社会の隅々にまでたくさんいるし、当時は、そうしなければ生きられる時代ではなかった。
それを、「共産主義打倒の闘志であったこと」を気取っている薄っぺらな政治家が、体よく利用したり、利用されたりしているだけの話に見える。
ルストラツェという言葉を聞く度に、胸焼けをするような嫌悪感が起こってくるものだが、今回のギロフスカ蔵相の辞任と言い、マルチンキェヴィチ首相の辞任と言い、これらの動きが一日も早い現政権の崩壊に繋がれば、これに勝るものはない。