7月4日に経済省から最新版『経済特区レポート』がプレスリリースされた(http://www.mgip.gov.pl/Wiadomosci/Strona+glowna/SSE+2005.htm)(英語版なし)。ポーランドでは、ユニークな外資誘致政策として、「経済特区」の制度がある。


経済特区(specjalna strefa ekonomiczna)は、1994年に出された「経済特区に関する法律」(Dz. U. 1994 Nr 123, poz. 600)で導入が決定され、2006年現在、全国に14箇所の経済特区が稼動中である。
経済特区の一般的なイメージとしては、麦畑の中に突如として、巨大な工場群と広大な工場用更地が出現すると考えていただければ間違いはなく、造成中の工業団地の風景によく似た光景が見られる(ただし、一部地域では、倒産した既存工場の建て屋をそのまま提供している例もある)。


経済特区では、2017年を限度として、10万ユーロ相当以上の投資を行った投資家に対して、投資額の50%(クラクフ・テクノロジーパークは40%)までの法人税支払いおよび固定資産税の支払いが免除される。
現在、経済特区では、フィアット社、VW社、オペル社が完成車生産を行っているほか、トヨタ社(エンジン、ギアボックス)、いすゞ社(エンジン)、フォーレシア(Fauresia)社(自動車座席)、レア(Lear)社(ワイヤーハーネス、防音材)、TRW社(シートベルト、エアバック)等の自動車関連企業が進出している。
電子機器では、シャープ社(工場建設中、LCDテレビ)、LG電子LCDテレビ、プラズマテレビ、家電)、LG Philips LCD社(工場建設中、TFT液晶モジュール)等のテレビ産業、ボッシュシーメンス・ハウスゲラーテ社(衣料乾燥機)、エレクトロラックス社(皿洗い機、調理器)、メルローニ・インデシット社(ガス式・電機式調理器)等の白物家電産業が進出を果たしている。
さらに、モトローラ社が大規模なR&D拠点をクラクフテクノロジーパークで稼動させている。


実は、ポーランド経済特区をめぐっては、同国のEU加盟交渉の中で、当時、ポーランドの経済成長が加速化することを阻止しようと動いていたロビイスト(UNICE: l'Union des Industries de la Communaute europeene a Paris / Union of Industrial and Employer's Confederation of Europe)等が、積極的な介入を行い、優遇措置の縮小を実現させたほか、経済特区の総面積も6325ヘクタールを超えてはならないことと定められた経緯があった。


しかし、その後、ブリュッセルを舞台としたカチマレク経済副大臣を筆頭とするポーランド政府の粘り強い再交渉が奏功し、2004年に、経済特区の総面積を1675ヘクタール拡大させ、全体で8000ヘクタールとすることに成功した。
この拡大分については、4000万ユーロを超える投資か、500人以上の新規雇用を行う投資家のみに利用を認めることとなったが、その代わり、投資家自らが選定した用地を「経済特区」の領域として新たに指定することとなった(経済特区の「サブソーン」としての指定を受ける)。


つまり、現在、ポーランドでは、上記の条件を満たす新規投資を行えば、自らの工場敷地が「経済特区」の領域として追加指定され、自動的に投資額の50%までの法人税免除が受けられる体制が整っており、これは、世界的に見ても、投資家側の融通が優先させる外資誘致スキームのひとつとなっていると言えよう。


2005年中に、同制度の適用対象となった大規模投資案件は34件にも達し、代表例としては、LG電子社、ジョンソン・コントロール社、マン・トラック社、ミシュラン社による投資などが挙げられる。さらに、2006年夏には、トルン市郊外に展開するシャープ社の工場用敷地が、新たに、ポモジェ経済特区のサブゾーン認定を受けた。
こうして、2005年末時点では、すでに、ポーランド経済特区の総面積は7558ヘクタールに達しており、経済省では、欧州委員会との再交渉で勝ち取った「リザーブ分」をほとんど使い切った形となっている。


しかし、ポーランド政府は次の手も着実に打ってきており、現在、ブリュッセルにおいて、経済特区の総面積を1万2000ヘクタールにまで拡大させ、しかも、拡大地における「4000万ユーロ・500人」条項を撤回させる方向で、交渉が大筋合意しており、近日中に法案が閣議を通る予定である。


今後とも、しばらくのうちは、経済特区ポーランドへの投資を考える際のひとつの大きなキーワードとして残りそうである。


さて、経済特区への累積投資額は、2005年末で257億700万ズウォティ(63億8620万ユーロ)に達しており、2005年のフロー投資額だけで、57億7980万ズウォティ(14億3580万ユーロ)を記録している。
中銀発表の資料と突合せが可能な2004年末までの累積投資額ベースでは、少なく見積もっても、ポーランドの製造業部門に投じられたFDIの15%ほどは、経済特区で実現したことになる。
今後は、上記で見た経済特区への外資誘致政策の弾力的な適用を受けて、経済特区へのFDI累積額が、ポーランドへのFDI累積額を分母にとった相対ベースで見ても増加していく可能性がある。
次に、国別の経済特区への累積投資額を見てみると、2005年末では、米国(54億6590万ズウォテイ、22%)、ポーランド(53億2120万ズウォティ、21%)、ドイツ(41億9530万ズウォティ、16%)、日本(36億9330万ズウォティ、14%)の順に大きく、日本が4位を占めている点が注目される。
世界的な外資系企業による投資が多い経済特区では、雇用1人が創出される度に、周辺地域における関連事業での雇用が促進され、50−100人の新規雇用が生まれるとの試算(経済省)もあり、今後とも、経済特区への投資は大いに望まれるところとなっている。

*本稿は、数値データ情報の更新を含めて、もう少し拡充する予定です。