うんともすんとも言わなかった『ポーランド国暗夜行路』、そろそろぼちぼち再開してみましょうか。今日はゴールデンウィークに行ってみた欧州最後の原生林とも言われるビャウォヴィエジャの森訪問記です。

さて、ポーランドでは5月1日が「労働の日」(シフィエント・プラツィ)、5月3日が「憲法記念日」(シフィエント・コンスティトゥーツィ)となっていて、日本と同様、5月の第一週を丸々休んでしまう習慣があります(この休みのことをポーランド語ではマユフカと言います)。

入社来初の有給でウヒウヒのわたくし、あまりにお暇なわたくしの脳裏に浮かんだのは、またしてもグルメな夢。ポーランドの北の果てにビャウォヴィエジャというベラルーシ国境から4キロの小邑がある。そこに行くと、ヨーロッパバイソンの保護区(Rezerwat/レゼルヴァト、これドイツ語から来たっぽい響きだなあ)があって、なんと、バイソンのお肉が食べられるらしい。
そこで早速、現地のペンションに電話掛けまくるも、どこもゴールデンウィーク中はお客でいっぱい。仕方がないので、村で二番目に高いソプリツォヴァ(Soplicowa)というホテルに電話。
一泊180ズウォティ(7200円)ならシングルがありますよとの返事。

あくる月曜日、午前9時10分ワルシャワ発ビャウィストク(第二次大戦の激戦地のひとつですな)の汽車に乗るはずが、案の定、ポーランド国鉄は30分の遅れ。
ポーランドの田舎は春真っ盛り、タンポポの花が線路いっぱいに咲いている。2時間半後、ビャウィストク到着。その後、古めかしい路線バスでハイヌフカ村まで。60キロの行程をバスは2時間かけていく。
ハイヌフカ村からさらに路線バスに乗り換え、ようやくビャウォヴィエジャに到着したのは午後5時過ぎだった。
村の中心でタクシーを拾おうとすると、、、、 村にタクシー会社はないとのこと。そこで、村に一軒だけある万屋のあんちゃんと料金交渉、仕入れに使っているというジューク(ZUK。50年代にデザインされた時代錯誤的なトラック)に乗せてもらい、無事、ホテルへ到着。東欧のたびはこういうことがあるから面白い。

あくる日は天気にも恵まれ、欧州最後の原生林といわれるビャウォヴィエジャ国立公園を3時間かけて散策。ビャウォヴィエジャの森の入り口には、時のポーランド王であったアウグスト3世が1752年に大規模な狩りを行った記念のオベリスクが立っている。しかし、碑文はドイツ語だったりして(アウグスト3世はドイツ東部ザクセンの出身)、こんなところにもポーランドの複雑な歴史が見え隠れしているようだ。
ビャウォヴィエジャの森はその後、長きに渡ってロシア皇帝の御狩場として利用され、ゲーリングヒムラーも狩りを楽しんだことがあるという。
森の内部には幾本ものブナの大木が生い茂り、巨大な倒木が朽ちるに任されれている。人の手を入れることが極度に制限された国立公園の内部は確かに見応えのあるものだ。

その後、自転車を借りて(1時間5ズウォティ=200円)、5キロ離れたバイソン保護区へ。期待していたはずのバイソンは、、、、 毛むくじゃらのただの牛だった。もっと大きいと思っていたのに、、、、
ただ品種改良の試みが行われていて、バイソンと牛を掛け合わせることにより、巨大な牛が誕生するという。そちらの方が、本物より見た目もゴージャスで野牛の風格があった!
これも、かけ合わせの妙と言うのか、品種改良はまさしく人間の手の為せる技であります。

その後、ベラルーシまでそのまま自転車で行ってみた。道路が途切れたところに立派な国境検問所の建物があって、パスポートとビザがないんだけど、ちょっとベラルーシを見せて、と言うと、じゃあ、ホントの国境までは良いですよ、と言う。
国境は必ずパスポートコントロールの向こうにある訳で、ポーランド側の官憲に連れられて、国境線まで行ってみる。国境には赤と白のストライプの線が道路に引かれているだけ。しかし、幅15メートルに渡って無人ゾーンが設けられており、森の中にぽっかりと空き地が延々と連なっている。EUEU外との国境は、どこにもこの15メートルの空き地があり、厳しく人の出入りを監視していると言う。
おそらく、怖いもの見たさで独裁国家ベラルーシを見てみたいという手合いが殊のほか多いのだろう。国境官憲の対応も朗らかだった。

そして待ちに待った夕食。町で一番のホテルに乗り込み(ベスト・ウェスタン系列)、野生肉料理の欄を探してみると、残念ながらバイソンはなかったのだ! 結局、運よく捕まえることができたメートルと相談の結果、地元産ガチョウ胸肉のりんご添えを注文。
流石、ベストウェスタンのホテルだけあって、顧客対応もてきぱきと正確だ。アミューズにはコケモモのジャムに西洋わさびを加えたソースであっさりとした鶏肉のパテを食べさせてくれた。
ガチョウの肉も西洋わさびで臭み抜きがしてあり、まったく獣臭が気にならない。添えつけのりんごはマディラ酒がよくしみこんで、優しい甘酸っぱいソースがガチョウとよく調和して、、、、 ベラルーシウォッカも飲んで、会計は〆て100ズウォティ(4000円也)。田舎にしては破格の高さだけれども、印象に残る料理が食べられたときはいつもうれしい。

現在、ビャウォヴィエジャには、エコツアーを売り文句として農家を改装した民宿が多くでき始めている。帰り道、タクシーの運転手にビャウォヴィエジャへと通じる道の両脇に広がる気持ちのよい木立の一区画を買えるものか尋ねてみた。すると、来年には国立公園の敷地面積が広げられ、辺り一帯も国立公園へ編入されるという。

ここにも、開発と保護との間で揺れる小さな「エコ観光地」の抱えるジレンマというものがあるのかもしれない。