ポーランド―ウクライナの国境地帯に流れるブク川を巡っては、「ブク川の向こうの同胞」(Rodzacy za Bugiem)という言葉がある。これは、同国の長い対ロシア蜂起の歴史の中でシベリアに追放されたポーランド人や旧ポーランド領であった現在のリトアニアやベラルーシ、ウクライナ西部といった地域に戦後も踏みとどまったポーランド系住民を指す言葉である。

2004年のEU加盟後、ポーランドから英国、アイルランド等のいち早く旧東欧諸国に対して労働市場を開放したEU諸国への移民が急増し、一部地域では労働者不足が深刻化し始めている。労働力不足を解決する切り札としてポーランド政府が期待を寄せているのが、彼ら、「ブク川の向こうの同胞」の存在だ。

6月12日、ポーランド下院において「ポーランド人カード法」(Ustawa o Karcie Polaka)の審議が開始された。法案によれば、カードの保有者にはポーランドビザの取得は依然義務付けられるものの、マルチプル入国ビザの発給を受けられ、ポーランド国鉄にも割引料金で乗車ができ、ポーランドへの移住や同国での合法的な就労も可能となる。6月12日付けジェンニク紙によれば、カードの発給対象となるのは旧ソ連諸国在住のポーランド系住民200万人で、ベラルーシを例に取ると、近くポーランドでも導入が見込まれるEU共通ビザ(シェンゲンビザ)の申請料にあたる65ユーロ(月当たりの平均年金受給額に相当)が免除され、従来どおり、カード保有者のみ無料でのビザ発給が受けられるようになるなど、影響は大きい。
問題は、誰を「ポーランド人」として認めるかであるが、法案によれば、カード申請者は領事の立会いの下に、「自分がポーランド人であると感じている」と宣誓を行うほか、事実関係を証明する書類としてソ連時代のパスポート(民族名が明記されていた)等の提出を義務付けられる。
さらに、ポーランドの出自を証明する書類が何も無い場合には、旧ソ連の各地に点在しているポーランド人組織がその個人の「ポーランド系」としての身柄を保証する文書を発行すれば良いことになっている。
こうなってくると、ポーランドとは縁もゆかりも無い人物でもカードの取得ができる余地が残されるように思われる。
すでに日本では、日系ブラジル人が地方都市の工場で重要な労働力となって久しいが、同様の政策をポーランド政府も採ろうとしているように見受けられる。
実は、ポーランドではすでに都市部を中心として、相当数の東側からの不法移民が家事労働者、建設労働者などとして就労している。
西側へと出稼ぎに出たまま帰らない「同胞」の間隙を埋める形で東側からポーランドでの「高賃金」を求めて流入する新たな「同胞」の流れを合法的に管理、促進して行くという政策機運がようやく実現しつつある。

さて、これが東側からの貧しい移民を労働者として受け入れる政策であるとするならば、外国投資庁(PAIiIZ)が旗振り役となっている「ポーランド系コミュニティーのためのビジネスセンター」(Centrum Biznesu Polonijnego)の立ち上げは、西側、主として米国に渡ったポーランド系住民をターゲットとして、祖国に投資を行ってもらおうとする動きである。
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