一月ほど前から、東欧にCIAの秘密刑務所(tajne wiezienia)があるのではないかという疑惑がポツリ、ポツリと報道されるようになってきた。

数週間前に米有力紙「ワシントン・ポスト」が初めてこの疑惑に付いて取り上げ、次いで、世界的な人権問題NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチが、「CIAが使用している航空機の飛行経路の分析結果から(そんな面白い資料があるなら、毎日でも公開して戴きたいものである)」、秘密刑務所は、「ポーランドルーマニア」に存在することを断定、11月7日には欧州評議会(Council of Europe)(注)がスイス連邦国会議員であるディック・マルティ(Dick Marty)氏を委員長とする調査委員会を設置、明確な証拠が挙がった場合には、該当国に制裁を課すことを決定した。
CIAの秘密刑務所には、アル・カイダ関係者が収容されていると言われている。すでに、マルティ委員会は、アル・カイダ支持者と見られていたイスラム教指導者アブ・オマル師(Abu Omar)が滞在先のイタリアからCIAエージェントによって連れ去られたきり、行方不明になっている事件(イタリア政府は、米国政府に対して、該当の22名のCIA要員の引渡し【ekstradycja】を求めている)では、オマル師が、秘密刑務所に収容されていることを示す証拠を得たとしている。
さて、この一件に関して、ポーランド政府は一貫してその関与を否定しており、仮に、ポーランドが「黒」と出た場合でも、欧州評議会が課せられる制裁は、「口頭注意」程度のものでしかない(具体的には、ポーランド選出議員の議員会議出席停止など)。ただ、秘密刑務所疑惑は、ポーランド政府の行き過ぎとも取れる新米政策を端的に示したものであると思われるのである。


(注)
欧州政治が複雑怪奇であるのは、ドイツやフランス、イタリアといった主権国家の上に、いくつもの国際機関が時として超然と聳え立っている構図の理解が難しい点にある。ここで出てきた、「欧州評議会」(英: Council of Europe,仏: Conseil de l'Europe)は、1949年、人権、民主主義、法の支配という価値観を共有する西欧10カ国が、仏ストラスブールに設置した国際機関で、現在、加盟国は45(日本もオブザーバーとして参加している)を数える。欧州評議会の活動範囲は、人権擁護、テロ対策、サイバー犯罪対策、生命倫理、人身売買ウォッチなど多岐に渡っており、同評議会には、議会に相当する「議員会議」(Parlamentary Assembry / Assemblee parlementaire)、人権問題専門の裁判所である「欧州人権裁判所」(European Court of Human Rights / Cour des Droits de l'Homme)が付置され、議員会議の議員は加盟各国の国会議員から選出されている(したがって、ポーランドの国会議員も、ワルシャワストラスブールの議会の両方に出られる可能性がある訳で、なんか楽しそうである)。ただし、議員会議の公用語は英・仏二ヶ国語であるから、英語(仏語)ベタな先生方には少々、窮屈かも知れない。

以上、欧州評議会に付いては、在ストラスブール日本国総領事館のHPを参考にさせていただきました(http://www.strasbourg.fr.emb-japan.go.jp/jp/europe/present_PE1.html