帰国してから二週間が経った。以前、欧州に住んで長くなる日本人と話をしていて、一番懐かしい日本の味は、との問いに、「蕎麦」と即答が帰ってきて印象に残ったことがある。

ところが、自分が外国暮らしを始めてみて、やはり思い出されたのは、蕎麦の香りだったのである。
香りを通じて、過去の記憶が鮮やかに思い出されるということは良くある。昔、寄り添っていた異性がつけていた香水の香りをふと嗅いだとき、過去の思い出がフラッシュバックのように目の前に繰り広げられる、そんな経験をする人も多いだろう。

小川洋子の小説に『凍りついた香り』という長編がある。ある日、調香師の弘之は、恋人の涼子のために「記憶の泉」という香水を調合する。やがて、弘之は涼子のもとを去ってしまう。かつて、数学オリンピック出席のために滞在したプラハを再訪するために。残された涼子は弘之の過去を探しにプラハへと飛ぶのだが、、、、

先日、新宿の東急ハンズで「雪の香り」という部屋用フレグランスを見つけた。京都の老舗お香メーカーが手がけたもので、50cc入りの壜で250回ほど使用できるという(価格は700円弱ほど)。少しツンと尖ったような爽やかな香りが広がった。それは、雪の結晶体をイメージしたかのようであった。

雪に埋もれるポーランドの地で、大切な人と「雪の香り」を嗅いで見るのも悪くないかも知れない。