ミコシュ解任

今朝の『共和国』紙一面を見て驚いた。ミコシュが解任(odwolany)させられたと言うのだ。
迂闊であったが、ミコシュが民間から入閣したことに初めて気が付いた。
ポーランド日本大使館政務班の作成したデータは以下のように語る。

○国有財産相 *

アンジェイ・ミコシュ(Mr. Andrzej Mikosz) 非議員

1965年生 (40歳) アダム・ミツキェヴィチ大学法行政学部卒

2000年から2年間証券取引委員を務め、証券市場部門の専門家として有名。証券会社、投資顧問会社の勤務が主体で、オルシュティンのストミル社の民営化・買収ではフランスのミシュラン社に対抗して民族資本側に立った。

http://www.forumpoland.org/st051101.htm

結局、ミコシュが大臣職を務めたのは、二ヶ月間であったが、その間に、ポピュリスト的な色彩の強いPiS政権の意向を受けて、いくつかの反外資的政策を実施に移している。

①Eureko(ユーレコ)問題: 国庫省が全株を保有しているポーランド最大の保険会社であるPZU社の民営化を巡って、オランダのEureko社とポーランド政府とが長年にわたって対立している問題。
事の発端は、前左派SLD政権期の99年11月5日に、国庫相がEureko社との間に、PZU株の20%売却する旨の協定書(Umowa Sprzedazy Akcji PZU SA)を結んだことにある。しかし、PZU株の売却はなかなか実現しなかった。
2001年10月4日には、改めて、両者間で、「PZU社株の売却に関する合意に関する追加的合意」(Umowa Dodatkowa do Umowy Sprzedazy Akcji PZU SA)が結ばれ(同文書は9月25日に閣議承認済み)、国庫省がPZU株の21%をEureko社に対して売却すること、同合意が2001年12月31日以降、効力を発効すること、2002年末までに国庫省は残余のPZU株を公開買い付けを通じて売却することが確認された。
この再合意にも関わらず、ポーランド政府は、PZU株の売却に応じようとせず、長い交渉の結果、2004年12月に当時のベルカ政権(SLD)との間に法的拘束力を持たない合意が成立した。国庫省は約束どおり、Eureko社に対して21%のPZU株を売却し、加えてもう5%を売却すること、ミレニウム銀が保有していたPZU株(発行済み株式の10%)をEureko社に対して売却すること、25%は国庫省が保有し続けることが合意されたが、下院の反対を受けて、署名には至らなかった。
契約については、ポーランド政府はEureko社にロンドンの国際仲裁裁判所(Miedzynarodowy trybunal arbitrazowy)に契約不履行で提訴され、05年8月に全面敗訴しており、株式売却を行なわない場合、数十億ユーロの賠償金支払いの義務が生じている。
Eureko社は、05年11月に、21%の株式を21億ズウォティで国庫省が売却すること(期限は06年6月30日)、国庫省は、契約違約金として60億ズウォティを支払うこと、PZU社の株式上場を確約することを条件に、和解(ugoda)を行う用意があることを表明した。
しかし、ミコシュは、これを拒否、解任の日となった今日、1月4日に自らの対案を発表するとしていた。
右派PiS政権を忌み嫌う『共和国』紙が、わざわざ、1月3日を選んで、ミコシュの黒い経歴を明かしたのも、然も有りなんという訳である。
これを受けて、EurekoのErnst Jensen副社長は記者会見を開き、新国庫相に対して、ベルカ政権の合意を守るよう説得していく旨を重ねて表明した。
PZU社の民営化がここまでこじれているのは、同社がポーランド最大の保険会社であることに加え、政界を巻き込んだ黒いうわさが絶えず、これを外資に引渡し、経営を透明化した場合、ポーランド政界が大混乱に陥る可能性があることを指摘しておかねばならないだろう。

②UniCredito Italiano(ウニクレディト・イタリアーノ)問題: 
本件の背景は少し複雑である。そもそも、2005年10月18日に欧州委員会がイタリアのウニクレディート銀行とドイツのHypo-und Vereinsbank(ヒポ・ウント・フェラインス銀行)との合併を承認したことに端を発しているからである。
この合併は、以下のジェトロ・ドイツ事務所レポートが述べるように、欧州経済の競争力強化に格段の意味を持つであろう、極めて重要な決断であった。

http://www.jetro.de/j/hp2005all/doko/April-Juni/doko16062005.htm

ウニクレディト(本社:ミラノ)は北部イタリアを基盤とし、資産規模でイタリア2位。HVB(本社:ミュンヘン)は、同ドイツ2位で南部ドイツに基盤があり、傘下のオーストリア銀行などを通じオーストリアでは同1位。

 新銀行は、イタリア北部、南部ドイツ、オーストリア一帯という比較的経済力の豊かな地域を地盤とすることになる。貸し出しは、ドイツ38%、イタリア30%、オーストリア15%
(2004年末時点)と、分散効果が期待できる。

 新銀行は16ヵ国で700億ユーロの総資産を持つことになる。これは中・東欧で首位となるとともに、第2位の銀行の2倍以上の資産規模になる。国別では、クロアチアブルガリアポーランドの3ヵ国で総資産ベースで首位となるとともに、9ヵ国で5位以内に入るなど存在感は大きい。なお、中・東欧部門の本部はウィーンに置かれる。

 ウニクレディトのプロフーモCEOは「ウニクレディトとHVBは共に、欧州の中心に根ざす強く新しい力となろう。両行は力を結合し、最初の真の欧州銀行になる」と述べた。

 総額約154億ユーロの買収は、ユーロ圏で国境を越えた銀行のM&A案件としては過去最大となる。ユーロの導入により、ユーロ圏内の金融・資本市場の統合は進展したが、金融機関のM&Aはこれまで国内同士が主流だった。今回の買収は、国境を越えた銀行の統合の動きに大きな影響を与えそうだ。」

中東欧では、「クロアチアブルガリアポーランドの3ヵ国で総資産ベースで首位となる」銀行が誕生するはずであったが、ポーランドでは、毎度のごとく、事は簡単には運ばなかった。
ウニクレディトは99年6月に、戦前から外国為替を扱ってきたBank Pekao(ペカオ銀)(旧ソ連のヴニェシュトルグ銀、チェコのCSOB等に似ていますが、こちらの創業は1929年です)の民営化に参加、同行の株式52.93%を保有していた。一方のHVBは、BPH(商工銀)の民営化に参加、同行の株式71.2%を保有しており、親銀行同士の合併により、ペカオ銀とBPHも当然、合併するものと見られていた。
ところが、ミコシュは、ペカオ銀株売却の条件として、当時、「ウニクレディトは、ポーランドで、競合他行の株式を買収してはならない」との条項が含まれていたことを理由に、これに待ったをかけたのである。この件に付いては、銀行合併の承認を行う銀行監査委員会(Komitet Nadzoru Bankowego)もまだゴーサインを出していない。
現与党であるPiSは、昨年8月の時点で、当時のSLD政権(ベルカ首相)に対して、Pekao-BPH合併への反対意見を提出していた。
Pekao銀とBPH銀の業務内容は相互補完関係にあり、合併のペアとしては最適なはずである。要は、現在のポーランド政府が、国内首位行が外資となるのを嫌っているだけである。
私とて、グローバリゼーション盲従主義者ではないが、この決定は、ポーランド経済のキャッチアップを寧ろ妨げる、全くのアナクロニズムであると考えている。
ちなみに、国内第2行であるPKO BP銀は、民族資本主導の銀行として残されている。

③Dolna Odra発電所民営化問題
この問題は、むしろマルチンキェヴィチ首相の国家元首としての能力に疑問を投げかけるものである。
最近、ミコシュは、Dolna Odra発電所(Zespol Elektrowni Dolna Odra)の民営化協定をスペインのEndesa社との間に仮調印(parafowanie)した。そのわずか数時間後に、マルチンキェヴィチが、公式見解として、「同発電所の民営化は近い将来には行われない」と発言したのである。一体全体、ポーランド政府の発する公式文書に権威などあるのか? まったく、まぬけ(niezrecznie)な話としか言いようが無い。

④Sanitas問題:
製薬会社Jelfa(イェルファ)社(同社は、約1000人を雇用するイェレニアグラ市を代表する企業。現株主は、産業発展庁=ARP,PZU社,国庫省)の民営化に絡んで、リトアニアのサニタス社の参加が問題視されている一件。
事もあろうか、サニタス社の法律顧問を務めているのは、ミコシュ本人である。大臣としてのミコシュは、自分で自分が作成した民営化プランを評価することになる。
ここまで滑稽な茶番劇も、19世紀ならいざ知らず、現代ではそうそう見られるものではないだろう。
野党POの批判を受けて、流石のミコシュも、本件に付いては、後任者に任せると発言している。

⑤PGNiG(ポーランド瓦斯・石油会社)問題:
本件は外資とは関係が無いが、ポーランド政府が打ち出した奇妙奇天烈な政策の一つとして紹介に値する。
PGNiG社の株式は、一部がすでにワルシャワ証券取引所に上場されているが、ミコシュはこれを再国営化すると言う。マルチンキェヴィチもこれに賛同しているが、その理由に付いては明らかにされていない。
1970年代に仏ミッテラン政権が敢行、あえなく挫折した国営化政策の真似事でも始めるつもりだろうか?? 


とにかく、現政権の打ち出す政策は、面白いものばかりで毎日楽しませてもらっている。
今後とも、現政権批判を精力的に展開していきたい。