さてさて、久しぶりの日記登場である。日記更新をしていなかった間、却って、ポーランド政治の諸相を現す言葉選びに専念できた気がする。

一つのキーワードは、「コスメティシズム:Cosmeticism」、もう一つのキーワードは、「大シスマ:Great Schism」である。

「コスメティシズム」とは、化粧品(コスメティックス)から出た単語で、愛用のALC社ウェブ英和辞典(www.alc.co.jp)には、未収録なのだが、スペインにある某ビジネススクールの単語帳によれば、
{Cosmeticism: A virus always ready to strike. It induces people to make promises that are not fulfilled and to announce projects of a purely cosmetic nature, which have nothing to do with the reality of the company. It is lethal in the long term.}
「コスメティシズム: 常に流行の危険性を伴うウイルスのこと。このウイルスに感染すると、有限不実行症に陥るばかりか、会社(社会)の現実とは乖離した、うわべだけを飾り立てたプロジェクトを実施に移すようになる。長期的には、(会社/社会にとって)致命傷となる。」とある。

カチンスキ政権が次々と打ち出す諸政策には、相互の関連が一切見られず、現政権は、社会の底辺に押しやられつつある人々の嘆き・呻きを一時的に充足させることのみを目的とした法令作りに邁進しているように見える。換言すれば、カチンスキの政策にはグランド・デザインというものが見当たらず、場当たり的な弥縫策、それも、しばしば、国家財政の純然たる無駄遣いを誘発するような奇策を弄することに徹しているのである。

その最たる例が、先週、ギロフスカ蔵相兼副首相によって発表された、一連の減税策であろう。そもそも、選挙戦では、現与党は、所得税率を18%と32%の二本立てに簡素化することを主張していた。
ところが、現実には、所得税率を現行の19%、30%、40%(日本は、10%、20%、30%、37%で課税免除無し)に据え置く代わりに、課税所得金額の調整を行うことに後退してしまった。つまり、これまで、年間所得が2790ズウォティに達していない家計に対して認められていた課税猶予を同3000ズウォティ以下の家計にまで拡大すること、30%の税率が課せられる家計の最低年間所得額を現行3万7024ズウォティから3万9300ズウォティに引き上げること、同様に、40%の税率は、現行税制では、最低年間所得額が7万4048ズウォティの家計から課せられるものを7万8600ズウォティ以上の家計から課すこととした(歳入減20億ズウォティ)。
更に、選挙戦で公約としていた株式等譲渡益税の原則廃止は見送られ、以前、本ブログでも紹介した新生児給付金制度の拡充も見送られた。

さて、この他の減税策も「重箱の隅をつつく」ようなもので、いちいち紹介するのも億劫になってしまう。敢えて、続けてみよう。

【企業活動に関連する税制】
身体障害者年金への拠出金減額(従業員基準所得の13%から10%への減額。ただし、雇用者負担率/被雇用者負担率比率に付いては未発表。現行制度では、雇用者・被雇用者側とも、6.5%ずつの負担。以下、ポーランド社会保障費負担制度の詳細に付いては、吉野悦雄氏論文、『ポーランドの年金改革』(www.soc.nii.ac.jp/jaces/40-1yoshn.pdfの4ページ参照。)(歳入減65億ズウォティ)。

・企業が購入する「個人用乗用車」にかかる消費税(VAT)全額免除。「個人用乗用車」は、最大積載量3.5トン以下の全車両と見なされる予定(歳入減8億ズウォティ

・企業が新規購入する機械、生産設備、トラック(「個人用乗用車」は除く)に対して、5万ユーロ相当を限度として、一度限りの加速化減価償却を認める(歳入減2億ズウォティ)。

・小企業に関しては、毎月提出義務のあった所得申告について四半期に一回行うものとする(歳入減4億ズウォティ

【その他、個人に関係する税制】
相続税の廃止(第一親等者に贈与の場合)(歳入減2億ズウォティ

・慈善団体に対して課税額の1%相当を寄付できる制度の簡素化に伴う歳入減(2億ズウォティ

・個人タクシー運転手、キオスク経営者、食料品・生活用品等の路頭販売者のなかで年間販売額が3万5000ズウォティに満たないものに対しては、出納口座(kasa fiskalna)取得の義務を廃止する(歳入減?)。

そして、極め付けは、

・化粧品への消費税(VAT)廃止(歳入減1億2000万ズウォティ)である!


一連の措置導入(2007年から)に伴う歳入減は総額で110億ズウォティに達すると見込まれている。ギロフスカ蔵相に拠れば、これでも、公約としている年間財政赤字額の上限300億ズウォティを超えることは無い見込みだという。

それにしても、本当にこの政権のやることなすこと、全て、何がしたいのかが分からない。
上記の諸策の中で、実質的な恩恵が感じられそうなものと言えば、企業に対する乗用車購入時のVAT免除措置くらいのものだろうか。
ご託ばかり並べて中身の無い人間というのは一番困りものだが、どうも、カチンスキ大統領はその筋のお方のようである。

さて、今日は、書いている私自身もほとほと疲れてしまった。実は、「大シスマ」論も書いたのだが、これは、明日の掲載分に回すとしよう。