最近のポーランドの外資の動向を見ていると、少し気になる兆候が見られる。

それは、今まで、次第に弱体化しつつあるかのように見えていた同国の「労組」の活動が、ここに来て、活発化しているように思えることだ。
去年春にもある日系のプラントで、1150名いる従業員のうち、350名を解雇しようとしたところ、約100名の連帯系組合員が抗議行動を展開した(2005年2月3日、3月3日ジェチポスポリタ紙)*。

更に、今日付けのバンキェル紙によれば、同国南部のティヒ市において最新型小型エンジンを生産している伊・米合弁のFiat-GM Powertrain社(累積投資額4億ユーロ、従業員数1300名)では、「週労6日制」の導入を雇用者側が迫ったのに対し、連帯主導の組合側が反発、全従業員投票(レフェレンダム)を行い、被雇用者側の態度を示すとの声明を出したという。
但し、報道によれば、経営陣は、「完全週労6日制に移行するのではなく、週労6日制と週労4日制を組みあわせた制度の導入を考えており、同様の雇用条件は、ルノーBMWでも受け入れられている」とした上で、「週労6日制実現の暁には、雇用を300名増やし、そのうち、140名は、ティヒ市内にあるFiat社完成車工場から異動させる」と述べ、従業員側の懐柔に必死である。
この件に関しては、最近、現地入りした某Fiat本社代表が、「土曜労働を受け入れられないのなら、ポーランドのエンジン工場は閉鎖。生産設備をそのままブラジルに移管する。」との「爆弾発言」を行ったとの報道(ガゼタ・ヴィボルチャ紙)もあり、今後の動向に注目が集まっている。
なお、経営側の最終通告日は、今週の水曜日(3月1日)となっている。

最近、中欧諸国に進出している外資製造業は、この種のレトリックを使って、西欧にあるプラントでは、「労働条件の改悪を受け入れないならば、生産設備を中欧に移管する」と脅し、中欧諸国では、同様に、中国その他へのプラント移管をちらつかせながら、被雇用者側に労働条件の改悪を呑ませるケースが増えているように見受けられる。
前者の例では、今年2月にGeneral Motors社が、オペル・ブランドの新型モデルであるMerivaの生産を巡って、スペインのサラゴサ工場とポーランドのグリヴィツェ工場とを最終候補として残し、結局、2008年までサラゴサ工場の賃上げ率をインフレ率の半分にまで抑える(事実上の減給措置)ことを条件として、スペインでのMeriva生産開始と雇用の維持を決定した例などが好例となろう。
同社は、ポーランド工場に既に7億ユーロ相当の投資を行っており、ポーランド工場稼動によるコスト削減効果は年間で実に1億ユーロにも達すると公言している(スペイン工場の労働コストはポーランド工場の3.5倍であるという)。
今回の決定において、決め手となったのは、上記の賃上げストップ合意に加え、①(生産移管時には)7400名の雇用を抱えるスペイン工場で3000名を解雇する必要があり、解雇コストが高く付くこと、②ポーランドへの生産移管に伴い、4億ユーロ相当の追加投資を行う必要があったこと、③スペイン政府がスペイン工場の拡充工事費の5%を金銭負担することを申し入れてきたこと、④スペインはユーロ圏であり、ポーランドと違って為替リスクが無いこと、が挙げられている(GM Europe社長、Carl-Peter Forster氏言)。
但し、氏は、今後とも、新車種投入の度に、スペイン工場とポーランド工場との生産性を厳格に比較検討していく、との立場を表明することも忘れなかった(以上、2月16日付ジェチポスポリタ紙)。

正直な話、私は、個人的には、西欧の労働条件はもう少し厳しくなってもいいのではないかと思っている。しかし、一方で、日本において、雇用習慣の一つとなった感のある「サービス残業」については、国際基準から見て、異常とまでは言わなくとも、やや「外れ値」にあることも事実であると考えている。
グローバリぜーションの進行の中で、東西欧州の労働条件が、今後どのような方向性を示し
ていくのか、多国籍企業の動向を中心に、今後とも注視していきたい。


*: その後の動きに付いては、この企業のつとに有名な秘密主義も手伝ってか、パブリックにされている情報源からは一切、情報を得ることが出来ないでいる。