今日は、BPH-Pekao銀合併問題に付いて簡単に触れた後、「世界大テレビ戦争」と題して、今執筆中のとある原稿から、目くるめく変化する、ポーランドのテレビ生産業界の勢力図に付いて紹介したい。

毎週、月〜木の午後10時40分頃から3チャンネル(ポーランドテレビ1)で、Prosto w oczy(直視)という番組をやっている。
この番組の司会は、モニカ・オレイニク(Monika Olejnik)という、ポーランド女性の中でもとりわけ、サド気が強そうなジャーナリストで(ちょっと語弊があるような)、番組の放映時間20分間の間に、ゲストの政治家をモニカ女王が冷たい視線で苛め倒す。
昨日は、これまた性格が悪そうなジタ・ギロフスカ蔵相(女性)との一騎打ち(ゲストが多数の場合も多い)で、モニカ女王も、いつも以上に力んでいるように見えた(モニカ女王のお姿は以下のHPで拝見することが出来ます)。

http://ww2.tvp.pl/2220,20040924120982.strona

争点となったのは、例のBPH-Pekao銀合併問題である。この問題を巡って、ポーランド政府の足並みにもほつれが見え出している。
水曜日には、バルツェロヴィチ中銀総裁が、銀行監督委員会(Komisja Nadzoru Bankowego)のメンバーから、BPH-Pekao銀の合併に反対の立場をとっている副財務大臣のツェザリ・メフ(Cezary Mech)を解任したことを受けて、ギロフスカ蔵相が激怒、「直視」の中でも、「バルツェロヴィチは王様じゃない」などと息巻いた。
これに対し、モニカ女王も負けてはいない。「消費者保護・競争庁(UOKiK=日本の公正取引委員会に該当)は、両行の合併は、競争法上、問題無いと言っていますよ」と何度も蔵相を問い詰めた。
欧州委員会は、この問題で、すでにポーランド政府を欧州仲裁裁判所に訴えることを決めているが、ブリュッセルの対応もなぜか、のらりくらりとしている。それは、ワルシャワの足並みの乱れを察知し、このまま、ポーランド政府が自壊して行くのを遠目から期待して見守っているかのようだ。


*******************閑話休題******************


さて、冒頭でも述べた通り、2006年現在、ポーランドでは、世界的なテレビ生産メーカーが、熾烈な競争を繰り広げているに至っている。その構図を見てみると、もはや、ポーランドは東欧の名の無き小国ではなく、世界的なテレビ生産メーカーにとって、重要な戦略拠点の一つとして浮上してきていることが良く分かる。
しかし、残念ながらと言うべきか、そこに日本メーカーの姿は無いのである。中東欧では、Panasonic社がチェコで薄型テレビを生産しているほかは、日本企業による家電分野への目立った投資案件に乏しい。
以下では、激動のポーランド電気機器産業の歩み及びテレビ産業の現況について、原稿からの引用という形で纏めてみた(以下の文章の引用はお控えください)。


【はじめに&前史】


英国Reed Electronics Research社発行の『世界電子機器産業データ年鑑』では、その最新巻において、「移行期にある欧州電子機器産業」と題して、「グローバル電子機器産業における西欧の地位は変化しつつあり、生産のかなりの部分が、労働コストの安い中国へ、次いで、中東欧地域へと移管されつつある」と述べられている。同年鑑に拠れば、2003年には、EU25カ国における重電を除く電子機器産業の生産高は2020億ドルに達し、うち、新規加盟10カ国における生産高は、200億ドル超であった。2002年には、中東欧地域全体では、ハンガリーの生産高シェアが最も高く38%を占め、以下、ポーランド(18%)、チェコ(14%)、ロシア(11%)等と続き、とりわけ、中欧3カ国の電子機器産業は、すでに世界的に重要な生産拠点に成長しているとして、高く評価されている。
  しかしながら、体制転換後にポーランド電機・電子機器産業が歩んだ道のりは、決して平坦なものではなかった。社会主義時代の同国は、ラジオ・オーディオ機器、電話機、家電全般、ケーブル・蓄電池・変圧器・タービン等の重電、テレビ、集積回路マイコンの生産まであまねく行う電子機器産業大国であった。但し、西側製品との競争とは無縁であった同国製品の品質は概して低く、西側からの技術移転も1980年代には累積債務問題から完全にストップし、特にコンピュータ産業では、ソ連指導部の同国に対する不信感の高まりから、当時、東側陣営が有していた最新技術にさえアクセスする事を拒まれる状態にあった。体制転換直後に、外国貿易が自由化されると、同国へは、主として、アジアNIES製の電化製品が大量に流れ込む事となり、その結果、コンピュータ産業は組み立て生産を除いてほぼ壊滅し、国内に4社あったラジオ・オーディオ機器メーカー(Diora社、Eltra社、Radmor社、Kasprzakラジオ工場)製品は一掃され、5社体制(Polkolor社、Curtis社、Elemis社、Biazet社、Unimor社)であったテレビ生産メーカーは、仏Thomson社が民営化に参加したPolkolor社を除いて、ほぼ市場から淘汰された。民族系資本で、激動の体制転換期を外資の参加を仰ぐ事無く乗り切り、かつ、競争力の維持に成功したメーカーは、家電のWrozamet社、Zelmer社など僅かのみであった。


【現況】


1990年代の苦しい時期を経て、1990年代末から2000年代に入ると、同国のEU市場への近接性、相対的に安く豊富な若年労働者の存在、消費需要が旺盛な国内マーケットの魅力、社会主義時代から蓄積されてきたモノづくりの伝統など、同国が有していた潜在的な優位性が、国際的な電機・電子機器メーカー各社の間でも大いに注目されるに及び、同国の電子機器産業へは、グリーンフィールド投資を主体としたFDIが大挙して流入する時代を迎えるに至っている。


【テレビ産業】


  以下では、同国のテレビ受信機生産において、枢要な役割を果たしている外資系4社(Thomson社、Daewoo Electronics社、LG Electronics社、Philips社)の同国内における事業展開に付いて見てみる。
  3.1節でも強調したように、同国のテレビ受信機生産は、体制転換を契機として、一旦、大きく落ち込んだ。民族資本で生き残ったのは、Thomson社が民営化に参加したPolkolor社(1991年に発行済み株式の51%を取得。投資コミットメント額3500万ドル)のみである。Polkolor社では、1970年代に、後にThomsonグループ傘下に入る米RCA社の技術供与を受けて工場を建設した経緯があったが、1980年代末には、ガラス精錬釜の老朽化から、ブラウン管不良率は30%となり、釜から剥離したレンガ片の混入すら見られたと言う。このような状態にあった同社にThomson社が眼を付けた理由としては、当時、中東欧地域においてカラーテレビ普及率がまだ低く、Thomson社製品も飛ぶように売れていた事から、同国内での生産拠点の早期確保による「先発優位」を獲得する狙いがあったと、後に同社幹部が述懐している。同社では、Thomson社による民営化参加後に、中型・小型ブラウン管の生産に特化し、品質向上も急速に実現され、1994年には、グループ内で最も品質基準の高いと目された工場へ贈られるThomson Corporate Quality Trophyを獲得するまでに至った。同社では、その後、ブラウン管生産台数を順調に伸ばして、現在では、年産600〜650万台、製品の75%が輸出されており、累積投資額は、5億2100万ドルに達している。懸念材料としては、このところ、同社を取り巻く環境が急速に変化している事が挙げられよう。つまり、2005年にThomson本体が、ポーランド(ピャセチノ、ワルシャワ近郊)・イタリア・メキシコの世界3箇所に有するブラウン管製造工場を2億4000万ユーロにて、インドのVideocon社に一括売却した事、これに先立つ2004年には、Thomson本体が、テレビ受信機生産部門を中国のTCL集団と統合させ、新会社Thomson-TCL Electronics(TTE)を設立するに際し、ポーランド工場(ジラルドゥフ、ワルシャワ西方)もTCL傘下とした事である。更に、ジラルドゥフ工場では、ようやく、2004年末からLCDテレビの製造が開始されたとの報道もあり、同国内の競合他社(特に韓国社)と比較して、若干、生産品目の変化が遅れている感もある。同社ポーランド事業の今後の展開に、耳目が集まっている。
  次に、同国での飛躍著しい韓国メーカーに付いて見てみよう。Daewoo Electronics社は、1993年からプルシュクフ(ワルシャワ近郊)でテレビの生産を行っている。操業当初は、ポーランド製ブラウン管、韓国製電子部品、イタリア製フレームを用いた組み立て生産であったが、2004年末時点では、累積投資額は既に9億3640万ドルに達しており、2005年には、ブラウン管テレビ150万台、LCDテレビ、プラズマテレビを併せて50万台ほど生産した模様である(ヴォイチェフ・シュルボルスキ:Wojciech Szulborski工場長)。2005年から生産を始めたプラズマテレビは、42インチ及び50インチ型の生産拠点となる予定である。更に、2003年からは、プルシュクフ工場内にR&D事業部を立ち上げた事が、同社PRによって伝えられている。
  LG Electronics社は、現在、同国にLCDテレビの生産拠点を1箇所(ムワヴァ、同国北部)有しており、累積投資額は1億8000万ドルである。目下、ムワヴァ市内に特別に設定されたヴァルミア・マズリ経済特区のサブゾーンにおいて、総投資額4000万ユーロ超の第二工場を建設中であり、LCDテレビ、プラズマテレビを生産する予定である。更に、2006年には、タルノブジェグ経済特区のサブゾーンに指定されているコビェジツェ(ヴロツワフ近郊)において、LCDテレビ工場および家電工場を総投資額4億2000万ズウォティ(うち、テレビ工場は1億7000万ズウォティ)で建設する旨の合意書を同国政府と取り交わしている。LCDテレビ工場は2007年中の稼動を目指しており、生産能力は、350万台を予定している 。 
  最後に、Philips社の事例を見てみよう。同社では、ポモジェ経済特区内のクフィジンにおいて、体制転換後の早い時期からブラウン管テレビ、衛星放送用チューナー等を生産していたが、2004年に、EMS(電子機器委託生産)大手の米Jabil Circuit社に同工場を売却した。同時に、同社では、LG Electronics社との間に設立したLG. Philips LCD社の、韓国工場、中国工場に次いで、全世界4番目となる工場をコビェジツェに建設する決断を下している。同工場では、2007年操業を目指して、TFT液晶モジュールを生産する事となっており、2011年までの総投資額は4億2900万ユーロと予定され、年産300万台体制からスタートし、最終的には1100万台体制に移行するとしている。

以上見たように、ポーランドは、家電産業グレート・ウォー(Great War)の主戦場の一つとなっている。
日本の家電メーカーにも、ぜひ、投資をご検討していただきたいものである。
(そうなると、研究対象が増えるので、、、、)