先日、セバスティアン・ミコシュ前外国投資庁副長官が辞任した(マフィアと関係があるミコシュ前国庫相とは別人です、念のため)。このたび、彼は、Plus Biznes紙に対して、ポーランドが近隣諸国と争って、その誘致に失敗した外資投資プロジェクトについてのウラ話(podszewka)を明かした。

まず、歴代の大統領、首相の外資誘致への意気込みに付いて。
クファシニェフスキ前大統領(SLD: 民主左翼連合)
外資にとって、大統領との面会はとても大事なことだ。彼はこの任務を完璧にこなした。ヒュンダイ自動車、LGをもてなしたときには、韓国語を少し話したし、ヒューレット・パッカードのカーラ・フィオリナ社長と昼食を共にしたときには、熱心にポーランドへの投資を勧め、HPは大統領官邸で投資覚書にサインした。カチンスキ大統領にもこの伝統(大統領官邸での外資との署名式)を引き継いでもらいたいものだ。彼が、ビル・ゲイツをもてなしたのはよかったが、その後が続かない。ビジネス界では大統領級の大物との会見が重要視されるのにである。しかも、カチンスキ大統領は、カネの話(補助金の話)はせず、一般論に終始してしまう。」


ミレル元首相(SLD: 民主左翼連合、無能なことで有名)
ヒュンダイ/キア自動車と一回しか会わなかった。彼らの側では首相との会見をもっと望んでいた。」


ベルカ元首相(SLD: 民主左翼連合、テクノクラート出身)
「彼はデルの首脳陣を厳かで静かな夕食会に招待して、ポーランドへの投資が有利であることを納得させようと心を砕いた。東京では、ブリヂストンの会長を朝食に招いて、ポーランド経済の現状、ポーランドが欧州へ回帰したこと、改革が継続して行われていることを挙げ、ポーランドへの投資が価値あるものであることを印象付けた。」


マルチンキェヴィチ前首相(PiS:法と正義、保守的なPiSにあって例外的なリベラル派だった)
「彼は投資家とよく会った。LGの案件を纏めたのは彼だ。ベルカがLG本体の説得にあたり、後を継いだマルチンキェヴィチがLGの系列7社を説得した。結局、彼が、LG工場の壁に石炭の塊を埋め込む(ポーランド地鎮祭)こととなった。彼はまた、打ち解けやすいタイプでもあった。この点は、特に、相手が、アジア人投資家、アメリカ人投資家の場合には重要なことだ。」


さて、カチンスキ兄首相はどう出るか? 彼もまた、カチンスキ弟大統領の轍を踏むのだろうか、、、


続いて、彼は、個別案件の敗因についても、自説を披露している。


ヒュンダイ/キア自動車
「この案件は、補助金の交付が争点となった案件のひとつだった。加えて、ポーランド政府の努力も足りなかった。スロヴァキアでは、政治のトップがヒュンダイを迎えた。首相は空港まで送迎に来たし、大統領は首相を伴って夕食会にヒュンダイを招待した。本案件をめぐっては、ポーランドとスロヴァキアとの間で骨肉を争う壮絶な誘致合戦があったが、我が方の力不足があったことは否めない。」


ブリヂストン
「幸運にも、ブリヂストンの投資の一部(トラック用タイヤ)は、わが国のスタルガルド・シチェチンスキで実現することが決まった。」


韓国タイヤ
「結局、韓国タイヤはハンガリーを選んだ。本件でも、補助金の交付が最大の争点となった。しかし、彼らの要求が度を越した水準にあったこともまた事実である。」


旭硝子
「この案件の敗因は、インフラの未整備にあった。日本人は、ポーランドの道路をテスト走行した後で、製品の輸送に耐えないとの判断を下した。しかし、現在では、輸送技術の発展により、精密機械でもトラックで運ぶ時代であるので、この理由付けは論拠に乏しいものと思っている。結局、彼らはチェコへ行ってしまった。」


とまあ、こんな感じである。ポーランドの高速道路は、EUからの補助金交付を受けて、今後の6、7年間で飛躍的に整備が進むことから、『インフラが弱いポーランド』というイメージも近い将来には大分、薄らいでいくだろうと推測される(整備計画の詳細は、以下のサイト参照)。

http://www.jetro.go.jp/poland/highways.html

しかし、政治家の資質だけは、そう簡単には変えられないようだ。まったく、マルチンキェヴィチ首相粛清後の現政権の面々を見ているとお寒い限りである。

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ただいま入った情報によると、7月19日付で、欧州委員会が、ポーランド政府によるLG-フィリップス社+系列7社に対する補助金の交付(総額2億ユーロ以上、ただし、これには経済特区における法人税の支払い免除分も含まれる)を承認することが確実となった。
LG-フィリップス社の投資額は、4億3000万ユーロ、系列7社も併せた投資プロジェクト全体では8億5000万ユーロの投資となる(詳細は、本ブログ、「世界テレビ大戦争」参照)。
LG社首脳は、補助金の受け取りが出来なければ、ポーランドでの投資は行わないと前々から表明していた。