今日は、視点をがらりと変えて、ロシアとフランスの最新鉄道事情をお伝えしよう。

【モスクワ発】
20日付露コメルサント紙電子版には、モスクワ−ペテルブルク間を結ぶロシア版新幹線である「赤い矢号」(クラースナヤ・ストレラー」(西武鉄道の「レッド・アロー号」の名称はここから来ていると言われる)のフルモデルチェンジについての記事が掲載されている。


7月19日、モスクワにて、シーメンスドイチェ・バーン(ドイツ鉄道)が共同で、ロシア交通省、ロシア経済発展省、ロシア国鉄に対して、自らの車両プランを発表した模様である(詳細は不明)。赤い屋号の後続モデル開発に関しては、2000年にプロジェクト総額が50億ドルと推計されている。
イーゴリ・レヴェーティン交通相によれば、ロシア政府は、シーメンスのほかにもカナダのボンバルディア社とも車両納入について協議中であるとしている。
レヴェーティン交通相は、新たに、「高速幹線会社」(ロシア国鉄75%−1株出資、トランスマシ25%+1株出資)という国策会社を作って、新車両の70%ほどを国産とする計画に意欲を示している。このトランスマシという会社は、ロシア最大の車両生産会社であるが、総じて技術力は低く、最近では、ロシア国鉄が輸入したシーメンス社製最新車両のロシア国内規格向けマイナーチェンジに失敗するという失態を犯している。このため、ロシア国鉄は、ドイツから予めロシア規格で製作された車両8両を再輸入する羽目に陥った。


レヴェーティンを筆頭とする交通省、経済発展省は、新幹線の国産化を主張するが、運営者側であるロシア国鉄はこれに強硬に反対しており、「高速幹線会社は、まだ会社としての体裁をなしておらず、トランスマシから派遣されたコンサルタントが詰めているだけの仮オフィスのようなものだ」と主張し、「国産化」の掛け声だけが先行する現状に危惧感を表明している。
レヴェーティンは、2007年中に最終的な外資提携相手を指定するとしているが、「高速幹線会社」の今後も含めて、新赤い屋号をめぐっては、ロシア政府側と外資側との激しい攻防が今後とも継続していくと思われる。


【パリ発】
7月19日付ル・モンド紙電子版に拠れば、首都パリを擁するイル・ド・フランス地方の在来線車両の1/4の総モデルチェンジ入れ替え(30年以上振りの新型車両投入!)をカナダのボンバルディア社が担当することが正式発表された。総納入車両数330両(うち、第一次納入数は172両)、契約総額40億ユーロに達する大型プロジェクトだ。新車両の名称は、ヌーヴェル・オトモトリス・トランズィリエンヌ(NAT)=新汎用電車となる。すでに、同社では、イル・ド・フランス地方など数地方において、500両のオトレイル・ア・グランド・キャパシテ(AGC)と呼ばれる新型在来線特急の納入契約を行っており(うち、130両はすでに稼働中)、その技術力が高く評価されている。


実は、一連のモデルチェンジに当たって、常に負け続けているのが、フランスを代表する重電コンツェルンであるアルストム社だ。

Si ce choix est maintenu, les arguments techniques auront ete finalement plus determinants que ceux lies au patriotisme economique souvent avances par Alstom face a son rival canadien.

もしこの選択が継続されるならば、アルストムがそのライバルのカナダ社に対する優位性として有しているところの
経済愛国主義よりも、技術力をめぐる議論が、最後の雌雄を決する要因となっていくだろう。

単語:
lie a 〜に繋がった
souvenir lies a son enfane 幼年時代に繋がる思い出
le patriotisme economique 経済愛国主義
l'emporter sur 〜に打ち勝つ
Le courage l'a emporte sur la peur. 勇気が恐怖に打ち勝った。


アルストムが高速在来線(レ・トラン・エクスプレス・レギオノ)の開発に困難を来たしている様子が垣間見られるが、アルストムは、トラム生産では絶対的な優位を確保しているようだ。同社のトラムウェイ・シタディスは、最近、アンジュー市とランス市への納入が決まったばかりだ。
そして、そのトラムの生産拠点のひとつは、ポーランドに置かれているのである(アルストムは、ポーランドに7箇所の生産拠点を有し、トラム、地下鉄車両、蒸気タービン、産業用大型鋳物、発電機、発電設備を生産し、同国から全欧向けに年間1億ドルもの輸出を行っている)。


労働者、学生、移民のデモとはほとんど無関係に、過去最高益を吐き出し続けるフランス企業、その秘密は、世界的な規模での事業展開にある。モンディアリザシオン(グローバリゼーション)は、加速化するばかりだ。