このほど、ポーランド外国投資庁(PAIiIZ)は、2010年には欧州で販売される液晶テレビのうち4台に3台はポーランドで生産される(年産3500万台体制!)という驚くべき予測を発表した(ガゼタ・ヴィボルチャ紙、11月3日号)。同庁に拠れば、現時点でポーランドは欧州の平面テレビ(液晶+プラズマ)で約20%のシェアを抑えているという。

同日、船井電機が南西部のノヴァ・スルに、1740万ユーロを投じて液晶テレビ工場の建設を行うことを正式発表した。この投資案件は、ブリジストンが投資を見合わせた正にその土地で行われ(詳細は、本ブログ2006年7月4日号)、船井電機と系列各社が入る敷地は、コストシン・スウビツェ経済特区の飛び地(サブゾーン)として認定を受け、2017年まで法人税(19%)の減免措置が受けられることとなっている。
新規雇用創出は1700人(うち、系列が700人ほど)になると見られており、船井電機の主要液晶パネル供給元である台湾の奇美(チーメイ)電子が進出することはほぼ確実だ(ガゼタ・ヴィボルチャ紙、11月3日号)。実は、奇美電子はシャープとの間に知財問題を抱え、一時、船井電機へのパネル供給の行く末も危ぶまれていたが、2006年2月に一応の解決を見て、同じ2月に船井電機が奇美電子に対して4億ドルの出資を行うことを決定したばかりであった(船井電機と奇美電子との関係については以下のサイトに詳しい)。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060215/113304/

船井電機としては、初のアジア外の工場(現在までに日本、中国、マレーシア、香港、タイに進出済み)となり、当初は月産10万台体制でスタートし、フル稼働時には20万台体制を敷く。

このところ、ポーランド拠点を巡る液晶テレビ各社の動きは活発であり、以下で見るように、メーカー間の合従連衡もますます盛んになっている。


LG. Philips LCD(フル稼働時、液晶パネル年産1100万枚、4億2900万ユーロ投資、3000人雇用)。→LGとフィリップスの合弁は解消へ? 
2004年にLGとPhilipsが合弁で設立したLG. Philips LCDは韓国、中国に3工場を建設し、ポーランドに4番目の工場を建設する意向であったが、2006年第2四半期に3000億ウォン以上の赤字を出し、Philipsは持ち株(32.9%)を売却したがっているとの報道がある(韓国「中央日報」日本語版、2006年10月9日)。なお、LG. Philips LCDは当初、LGとPhilipsが50%ずつの出資を行い設立したが、すでにPhilipsは持ち株の15%以上を市場を介して売却している(10月12日付プルス・ビジネス紙)。
LG. Philips LCDポーランド工場には、東芝が20%(50億円)の出資を決定し、東芝は同社から液晶パネルの安定供給を受けたい意向であり、今後、同社を巡って大きな動きが現れる可能性がある(中央日報の記事に拠れば、Philips出資株の取得に関心を示しているのは、ソニー、松下、東芝であるとされている)。


シャープ(フル稼働時、液晶パネル年産1000万枚、1億5000万ユーロ投資、3700人雇用、9月18日付プルス・ビジネス紙。第一段階の投資は4400万ユーロ、800人雇用、生産開始は2007年1月予定)


オリオン電子(シャープ系列。液晶テレビ生産、2600万ユーロ投資、1713人雇用、9月18日PB紙。日本工場、タイ2工場、英国1工場、米国2工場に次ぐ新工場の設立)


住友化学Sumika)(シャープ系列、3300万ユーロ=50億円投資、400人雇用、20ヘクタールの工場敷地に2工場を建設予定。第1工場では、偏光フィルムを月産5000セット、第2工場では液晶モニター用拡散板を月産5000トン生産。2工場とも2007年夏の操業を目指す。8月10日付PB紙)


LG電子(フル稼働時、液晶テレビ400万台生産、3730万ユーロ投資、500人雇用、9月18日付PB紙)


東芝(フル稼働時、液晶テレビ200万台生産、4200万ユーロ投資、1006人雇用)


Daewoo電子(2006年に平面テレビ出荷額を2億5700万ドルとする予定、同社PRによる)


Humax(韓国、2008年に液晶・プラズマテレビを合わせて100万台生産、1000万ユーロ投資、200人雇用、9月18日付PB紙)


Thomson-TCL Electronics (TTE) 中国のTCL集団が、欧州事業から撤退の方向で調整をしていることが、最近、フィナンシャルタイムズ紙で報じられた。これに伴って、「トムソン」ブランドでの生産を行っているTTEのジラルドゥフ工場(液晶テレビ生産、ワルシャワ西方)を台湾のTPV電子(AOCブランド)が買収するのではないかとの報道が出ている。


TPV電子(台湾)、上記とは別件で、コストシン・スウビツェ経済特区にて液晶テレビ工場を建設する意向(投資額1億ユーロ、500人雇用、9月18日付PB紙)。


Jabil Circuits(米国)、OEM大手の同社は、クフィジンにあったPhilips社のブラウン管テレビ工場を買収、現在は、液晶テレビの生産も行っている模様(今後1300万ユーロ投資、500人雇用?、同上)。


各工場の輸出額(2005年)(出所:ポリティカ誌)*
LG電子ムワヴァ工場  8億4740万ドル
・TTEジラルドゥフ工場  4億2010万ドル
・Thomson Multimedia Polska工場(ピャセチノ)  2億7560万ドル
・Jabil Circuitクフィジン工場  2億950万ドル
・Daewoo電子プルシュクフ工場  2億300万ドル 

*原データはズウォティ建て、2005年平均為替レートでドル換算。

ポーランドを含む中欧には、すでにデジタルテレビの主要プレーヤーが大方出そろった感がある(加えて、日本ビクターがポーランドへの投資を検討しているという報道も現地でなされている、9月18日付PB紙)。ここで、ポーランド以外の欧州諸国での日系デジタルテレビ各社の動きを見てみよう(10月9日付、日経新聞)。

・シャープ(スペイン工場、年産120万台)
ソニー(スロヴァキア工場、スペイン工場。2工場合わせて年産約600万台)
松下電器チェコ工場、年産100万台)
・IPSアルファ(チェコ工場でパネル生産。2007年操業予定)
・日立(チェコ工場、液晶・プラズマテレビを合わせて年産約100万台。2007年夏操業予定)
東芝(英国工場、年産約100万台)

EUは域外からのデジタルテレビ輸出に対して14%の高関税を課している上、これから欧州での「薄利多売」商戦が激化することが予想させるデジタルテレビ業界では、アジア工場からの輸送に60日間もかかる現状では、とても欧州市場での需要に対応しきれない(9月18日付PB紙)。
EU域内、それも人件費が格段に安い中欧諸国(ワーカー賃金は西欧の1/4〜1/5)で現地生産を行えば、高関税も回避でき、単一市場の強みを生かして、輸送も迅速かつ低コストで実現できる−アジア諸国のデジタルテレビ各社が、これまでなじみの薄かった中欧諸国へと雪崩を打つように進出を決定している背景には、業界を巡る上記のような緊迫した状況がある。
半年近くの長い冬を迎えている中欧で、メーカー各社は来春から来夏にかけての工場稼動に照準を当てている。ここに来て、Dolina RTV(テレビの谷)という言い回しがポーランドの新聞紙上を飾るようになった。
シリコンバレーの向こうを行く「テレビバレー」の出現で注目を浴びる中欧諸国、この地が、「世界テレビ戦争」の主戦場のひとつとなることは間違いない。