先日、今年8月にワルシャワの下町オホタにオープンしたばかりの日本料理店、「いろり」へお邪魔した。このお店、カウンターも合わせて椅子の数は10席ほど、こじんまりとした空間は、気の置けない仲間とホッとしたひと時を過ごすのにお誂え向きだ。

とにかく、ここのご主人との会話が面白い。いりこ出汁の風味がよく出たカルビチゲを戴きながら、この枯れた風味というかうま味をポーランド人に理解させるのは難しいでしょうねぇ、などと話しているうちに次々とビールが運ばれてきて、だんだんと座も盛り上がってくる。

そのうちに閉店の時間も何時の間にか過ぎ去って、完全に料理談義モードに突入。 ご主人は、基本的に自分が食べたいものしか作らない。出てくる料理は、日本料理の基本線は守りつつ、ご主人が欧州遍歴の中で出会ってきた美味いものを組み合わせた創作料理も多い。
鴨肉を八角と醤油で煮〆たやつを油でカリッと揚げて、ラーメンのトッピングに載せてみるとか、いろいろと工夫をされている。

ポーランドの堅い肉を和牛のように柔らかくするには、ゲル化処理を行う。しかし、ゲル化しても、あの和牛の脂肪のねっとりと香り立つような独特の感じを再現することはまだできない。
それではどうすべきか?
そもそも、ポーランド人にとって、ねっとりとした脂肪の感じなど賞味の対象となり得るのか?
魚脂と獣脂とを合わせて混ぜて使う場合、魚の脂の方が融点が低いから、文字通り、マグロのトロは舌の上でとろけて行く。ところが獣の脂は融点が非常に高い。ポーランド人は猫舌が多い??からそれへの対処も必要だ等々、矢継ぎ早にご主人の「悩み」が飛び出して、我々も考えを巡らすことひとしきり。

さらに、こっちはこっちで話をしているうちに、食べてみたい料理がいろいろ思い浮かんでくる。烏賊のヌタに小松菜を和えて白ゴマをチョロリとかけたのが食べたいです。鮎みたいな魚(そんなの居るのか?)のなれ寿司が食べたいので作ってください等々。それに掛けても、まったく僭越な客です、我ながら、、、、

とまあこんな感じで、ご主人の手料理を戴きながら、ワルシャワの夜はゆっくりと更けていくのでした。