ネットコンテンツの世界というものは、優れてローカルで民族色にあふれたものだ。ここポーランドでは、今週木曜日(2月1日)Gadu-Gadu(ガドゥガドゥ)というチャットサイトを運営する会社がワルシャワ証取に上場される運びで、投資家の注目を集めている。ニューズウィーク誌2月4日号に拠れば、ポーランドではすでに3世帯に1世帯の割合でネットが普及しており、これは、ルーマニア、ブルガリア、ウクライナの10世帯あたり1世帯と比較すると格段に多いという。


さて、ガドゥガドゥというのは、ポーランド語の「おしゃべりする」という動詞にあたるガダッチ(gadac)から来ている名称で、一説によると、同国のネット利用者の半数が利用しているソフトだという。
斯く言う自分もPCにガドゥガドゥをダウンロードしているが、仕組みは一昔前に日本でもはやったチャットそのものでツールバー上に置いておくと、友人が声をかけてくる毎に反応し、点滅でメッセージの到着を知らせてくれる。こんな単純なものが流行る理由がよく分からないが、周りのポーランド人を見ていると、仕事中でも暇なときにこのガドゥガドゥでチャットをしているのを見かけるくらい、当地ではポピュラーな通信手段となっている。


ところで、一般にポーランド地場企業は、競争の激しい西欧市場よりもコメコン時代から馴染みがあり、先行者利益も期待できる旧ソ連、バルカン方面に積極的に進出していく傾向があるが、ネットコンテンツの世界でも同様の動きがあるようだ。
すでに、ウクライナでは、ガドゥガドゥの姉妹版である「バワチカ」(Balacka)が立ち上げの最終段階を迎えているほか、ポーランド最大のEビジネス向けネット調査会社であるゲミウス(Gemius)、ネット広告会社のAd.netuも進出の機会を窺っているという。
更に、ポーランド(Allegro)、チェコ(Aukro.cz)、ハンガリー(teszvesz.hu)で大手ネットオークション会社として成功を収めている英国資本のQXL Ricardo社では、今後、ルーマニアブルガリアウクライナへ進出を行う意向である。
同社では、2006年度の売上高1240万ポンドのうち、「アレグロ」系列のネットオークションコンテンツからの貢献が630万ポンドにも上ったという。
同社が展開するオークションサイトが中欧諸国で急成長を遂げた背景には、現地の最大手ネットポータルと提携し、ポータル会社にオークション収益から特定のフィーを支払う代わりに、ポータルサイトをフルに活用して現地のネット利用者の間に浸透を図る戦略が功を奏したことが指摘されており、今後、ルーマニア等でも同様の戦略を採る(ポーランドの場合、Onetと提携。ハンガリーでは、Sonomaと提携)。


ただし、旧ソ連諸国、バルカン諸国では、所得水準が低い上に、先に見たようにネット普及率も低く、ブロードバンド通信が殆ど普及していないことが、Eビジネス展開上の最大の障害となっているようだ(ウクライナでは、290万のネット人口のうち、ブロードバンド利用者は1万数千人!に留まるとの試算もある)。
このような状況下で、ポーランドの地場系ネットコンテンツ各社が東方市場の開拓に乗り出す理由としては、ネットコンテンツビジネスの場合、ノウハウの移転を比較的スムーズに行うことができ、スタートアップコストも安く抑えられること、同地域の比較的に若く豊富な人口に早い時期からアクセスしておくことが重要であること(ウクライナの人口は4800万人、ルーマニアは2200万人)を挙げられるだろう。


eBayを筆頭とするネットコンテンツの巨人達がまだ目を向けていない「処女地」で、ポーランドを初めとする中欧諸国発のネットコンテンツビジネスがどこまで頑張れるか、正にこれからが正念場と言えよう。