このところ、フランスを代表する自動車部品メーカーであるフォーレシア社が、契約獲得を目的としたリベートの支払いを、フォルクスワーゲン社、アウディ社、セアト社、フォード社、BMW社に対して繰り返していたのではないかという疑惑が浮上している(ル・モンド紙7月26日、27日版)。


このうち、BMW社へのリベート支払額については、ミュンヘン検察庁のアントン・ヴィンクレル検事が暴露したところに拠れば、BMW社関係者2名に対する総額10万ユーロ(約1450万円)程度のものであったと言う。この証言から察する限り、リベート支払額そのものは、あるいは小さかったかも知れない。しかしながら、すでに事態は拡大の兆しを見せている。
具体的には、フォルクスワーゲン社では、今回のリベート受け取りに連座したと思われる自社関係者について、会社に対する不義行為を働いた者であるとして、フランクフルト検察庁に対して告訴すると発表している。更に、シュピーゲル誌電子版に拠れば、VW社のピッシェツリーダー社長が、フォーレシア社の筆頭株主(70%保有)であるプジョーシトロエン社のフォルツ社長に対して、渦中のフォーレシア社ピエール・レヴィ社長の辞任を書面にて要求しているという*。


ル・モンド紙の記事は、今回のフォーレシア社の一件が、独・仏経済界に漂う苛立ちの感情を更に悪化させるものになるのではないかと分析している。
同紙に拠れば、独仏間の経済関係の雲行きが怪しくなってきていることを傍証するケースとして、以下のような事例が挙げられるという。

・ドイツ証取が、パリ証取を傘下に従えるユーロネクストに対して行った経営統合案の行方に黄信号が点っているケース
・欧州航空業界の巨人、EADS社を巡って独仏経営陣間に深刻な対立が生じているケース
・2001年にポーランドの携帯大手PTC社の支配権を巡って、ヴィヴェンディ・ユニヴァーサル社とドイチェ・テレコム社が対抗し、前者がPTC社の支配権を掌握したケース
シーメンス社とアルストム社との間で受注競争熱が高まりつつあるケース

同紙に言わせると、フランス経済の特徴は、「ナポレオン・シンドロームグランゼコール出の支配階級が主導する国家による民間企業への介入主義」という言葉によって特徴付けることが出来ると言う。
"En cas de besoin par un coup de fil au palais de l'Elysee" (必要なときには電話一本でエリゼ宮=大統領官邸まで)というわけだ。
国家による経済への介入主義は、時として、極端な自国企業優遇政策と結びつき、近隣諸国との摩擦を増幅させるので抑制すべきだ、というのが同紙の趣旨である。


最近、ご無沙汰気味のどっかの国の現状分析にも、そのまま当てはまるような言葉。
パリとワルシャワとの間の距離は、案外近いのかもしれない。


*一方で、BMW社の対応は冷めている。今年に入ってから、3人の経営陣にリベート受け取り疑惑がかかり、そのうちの1人(購買部部長)が一時拘留中であるとあっては、フォーレシア社との間の新たな疑惑の浮上も、BMW社にとっては、一連の疑惑に「最後のエピソード」が付け加わっただけのものに過ぎないようだ。

ヴィンクレルに拠れば、フォーレシア社のほかにも、同様のリベート支払い疑惑で、検察当局では、以下の自動車部品5社に質問状を送付済みであるという。
レア・コーポレーション、インティエル(マグナ・インターナショナルの子会社)、M&H(ドイツ資本)、グラマー(ドイツ資本)、ドレクスルマイアー(ドイツ資本)