ポーランドでは、「FDI受入額年間100億ドル達成」が予てより非公式的な政策目標に掲げられており、実際に、2000年にはTPSA(ポーランド通信)の民営化などもあり、FDI流入額が106億ドルに達した。しかし、その後は、概ね年間60〜70億ドル台で推移している。


8月21日付ジェチポスポリタ紙に拠れば、2006年上半期には、80社以上の外資系企業が、ポーランドにおいて総額40億ドルほどの投資計画を発表したと言う(新規雇用創出予定数は約3万6000人)。以下に、同紙で紹介された大型投資プロジェクトの概要を抜粋してみた。

フィアット社: 7億ドル(2007年央まで)、新型フィアット500生産ラインへの投資、ティヒ市(カトヴィツェ経済特区)、雇用者数未定

シャープ社(系列含む): 6億1500万ドル(2010年まで)、液晶テレビの生産、ウィソミツェ(トルン市郊外、ポモジェ経済特区)、雇用者数1万人
*シャープ社単体では、最初期投資額は4400万ユーロ(800名雇用)、2008年末までに3500人雇用、2011年までに5000人雇用計画(同社欧州法人代表、ハンス・クライス氏)。
*系列各社の中では、オリオン電気が7500万ドルを投資し、1500人以上を雇用することを既に表明。
*ウィソミツェの同社拠点は、クリスタルパークと呼ばれ、系列と併せて1万人を雇用する計画。

ブリジストン社: 2億4500万ドル(2009年央まで)、トラック・バス用ラジアル・タイヤの生産、スタルガルド・シチェチンスキ(対ドイツ国境近く、ポモジェ経済特区)、760人。

メトロ社: 2億4500万ドル(2006年末まで)、ハイパーマーケット網拡張、雇用者数未定。

ユーロポリス社: 2億1000万ドル(2006年末まで)、ロジスティックス・センターの建設、ピョトルクフ・トリブナルスキ(ワルシャワ南西)、6000人。

イケア社: 1億9000万ドル(2006年末まで)、店舗網の拡充、雇用者数未定。

TPV AOC社: 1億4000万ドル(2007年末まで)、パソコン用モニターの生産、コストシン近郊(コストシン・スウビツェ経済特区内か)、1500人。

AvtoZaz社(ウクライナ): 1億3000万ドル(2007年末まで)、新型車種の生産、ワルシャワ市内の旧大宇工場への投資、雇用者数未定。

Indesit社: 1億ドル(2008年末まで)、ラドムスコ、1300人。

Fiat-GM Powertrain社: 1億ドル、ビェルスコ・ビャワ(カトヴィツェ経済特区)の自社工場拡充、新型ディーゼルエンジンの生産、300人。


さて、今年上半期にポーランドでの投資を発表した80社以上の外資のうち、50社ほどは投資額が3000万ドルを超えず、比較的に規模が小さいことが大きな特徴であると言う。ポーランド外国投資長の前長官、アダム・ジョウノフスキによれば、これらの多くが、大規模投資を行った親会社に付随してポーランドへの投資を決定した系列子会社、部品供給企業である。今後は、日本企業の間でも、中小企業のポーランド進出が加速化していくことが期待される。


更に、最近の傾向としては、
① ポーランドに進出済みの外資による追加投資案件が増大していること、
② 会計処理センター、コールセンターなどのBPO(ビジネス・プロセス・オフショアリング)関連案件が増えていること、
が挙げられる。
最近でも、BPO関連の投資として、マイクロソフト社、シェル石油社、カールスバーグ社、MANトラック社等の進出が相次いでいる。
BPO投資は投資額としては小さいものの、雇用創出効果は大きいことから、ポーランド政府としても積極的に誘致をしていく旨を表明しており、同国政府として、BPO投資案件への政府直接補助金の交付を行う(ヴォルヴォ社のBPO拠点への補助金交付などが既に実現している)、税制上の減税措置が受けられる経済特区へのBPO投資を認める等の優遇措置を打ち出してきている。


最後に肝心要のFDI受け入れ見込み額についてだが、ポーランド中銀が発表している非公式的な国際収支表(速報値)に拠れば、2006年1月〜6月までの間に57億5800億ドルのFDI流入額があったとされる一方で、今年4月〜6月までの2ヵ月間には17億ドルのFDI流入額を記録しているのみであり、過去の経験則から言って、現状では恐らく、今年もFDI流入額が100億ドルの大台に乗ることは困難であると見られている。


(www.nbp.plの中のStatistics→Balans of Paymentsに該当速報値資料あり。ただし、ポーランド中銀がこのサイト内で公開している資料の一部は、オーディットを経ていないごく粗い「生データ」であり、正式のFDI統計とは大きな乖離が現れるのが通常であるので、データの扱いには細心の注意が必要である)