【ポーランド大統領選挙】ポーランドで5月10日に行われる予定の大統領選挙では与党「法と正義」の現職ドゥダ大統領が優勢であるが、コロナ危機のさなかに封書による投票という奇異な方法で選挙を強硬に実現しようとしている与党への市民の反発が高まっている。
4月27日現在、ポーランドのコロナ患者は1.2万、死者は500名強、人口3800万(出稼ぎ移民を入れると4000万オーダーと言われる)の中型サイズの国としては、割とコロナを抑え込んでいるほうであろう。PCR検査も30万件ほどとまだ少ないが、確実に実施数は増えている。
しかしながら、ワルシャワの街は、外出時にマスク着用が義務付けられ、飲食、映画館、劇場、博物館などすべて閉鎖中で、市民は感染の危機の中でひっそりと息を詰めている。
そんな最中、5月10日日曜に大統領選挙が強行されようとしている。先にレフ・カチンスキ大統領が飛行機事故で亡くなった際には、当時下院議長であったコモロフスキが選挙まで大統領職を引き継いだ(2010年7月から8月にかけて)。今回の大統領選挙でも、なぜ同じ措置がとれないのか。
選挙人には投票のための特別な封書が郵送されることになっているが、ポーランドでは、住所、子供の生年月日、結婚離婚歴、子供の生年月日、税務情報など多くのセンシティブな個人情報が「PESEL番号」という個人に割り当てられた11桁の番号で管理されている(4月8日付本ブログ参照)。
今年4月18日施行の「コロナウイルス特別法」99条によれば、「ポーランド郵政」から申請があった場合、2日以内にデジタル化担当大臣は全国民のPESEL情報をポーランド郵政に引き渡すこととされている。選挙目的に使用後、郵政は個人情報をすべて消去する義務を負う。
一方で、ポーランド郵政は、各地方自治体に対して、選挙人名簿を渡すよう要請していたが、クラクフ市、オポーレ市などの首長はその要求を退けていた。
選挙人名簿には個人の実際の居住所が記載され、PESEL情報には戸籍上の住所が記載されている。例えば、ワルシャワで生まれ戸籍登録している人が、仕事の関係で長年クラクフに住んでいるのであれば、選挙人名簿にある住所に封書が届かなければ投票に行くことができない。
報道によれば、すでにポーランド郵政は4月22日時点で全国民のPESEL情報を得ており、このまま一部の自治体から選挙人名簿が届かない状態で大統領選挙に突入する可能性が高い。
そもそも、多くの個人情報が集められているPESELの情報ソースにアクセスできるのは、内務省保安局(ABW)、中央汚職対策局(CBA)、警察、検察庁、裁判所、税務署などの公的機関に限られており、ポーランド郵政は日常業務に必要がある場合のみ閲覧が許されている。
このような事態を受け、ワルシャワ市モコトゥフ区検察局の検察官エヴァ・ヴジョセク(Ewa Wrzeosek)は、大統領選挙がコロナ感染リスクを増大させないか職権で捜査を開始したが、捜査は開始から3時間で打ち切られた。
いま、ヴジョセク検察官は問責手続きにかけられているが、本人は、「検察庁のホームページで自分に対して問責手続きが開始されたことを知った。今のところ、公式な決定はなく、問責内容も発表されていない。どんな罪の申し立てに対して自分が防衛しなければいいかさえ分からない」と本日(4月27日)ラジオで語っている。
コロナ禍のさなかに強行されるポーランドの大統領選挙をめぐっては、すでに欧州評議会が国際スタンダードを満たした選挙でない可能性があると表明し、欧州議会でも前首相(ポーランドでは野党所属)のトゥスク前EU大統領らが所属する欧州人民党(中道左派)がポーランド政府に大統領選挙の延期を申し入れている。
そんな中、本日(4月27日)、ドゥダ大統領は、「次の私の任期中には公立病院の民営化は決して行わない」と発言するなど、大統領選挙後の展望を語りだしている。強権化が進むポーランドの今後を追っていきたい。
参考:
https://www.rp.pl/Wybory-prezydenckie-2020/200429300-Poczta-Polska-juz-ma-nasze-dane.html
https://wpolityce.pl/polityka/497198-powieksza-sie-grupa-zbuntowanych-samorzadowcow