ワルシャワの中心街、イェロゾリムスキェ通りに大きく掲げられたティーポットから勢いよくほとばしるジャスミン茶の広告が先日、静かに引き降ろされた。今年3月に新規に開設されたLOTポーランド航空によるワルシャワ−ペキン便の就航を祝う壁面広告が外されたのは、他でもない同路線の閉鎖(6月6日に最終便がワルシャワを飛び立つ)によるものである。

このところポーランドでは、建設現場を中心に不足する労働力不足を補うために中国から期限付きの特別団体ビザで大量の単純労働者を入れる動きが活発化するなど、中国との関係強化に官民挙げての取り組みが行われている。中国からの単純労働者の移送後には、必ず、かつての西独が経験したようなガストアルバイターの定住化という問題が生じると思われるが、この問題はここでは触れない。LOTによるペキン便就航は、水面下で緊密化の度合いを高めつつある中波関係を象徴するような出来事だった。

今回の突然のペキン便廃止の背景には、1.集客予測を見誤ったこと、2.シベリア上空の飛行許可が下りなかったこと、の大きく2つの要因を指摘することができる。

1.集客見込み−17日付ジェンニク紙は、ワルシャワ−ペキン便の採算ラインとして週五便の運行と1000−1500人の週当たり乗客数が必要であると主張している(実際には、週450人以下の乗客しか集まらなかったようだ)。さらに、欧州−アジア間の新規路線を就航させるためには、近隣諸国から集客できるようなハブ空港の存在が不可欠であるところ、ワルシャワショパン記念国際空港には、ハブ空港としての機能が備わっていないことも今回の失敗の理由として挙げられている。

2.シベリア上空の飛行拒否−同紙に拠れば、ロシア政府はワルシャワ−ペキン線の開設二日前(!)になって、領空飛行権を認めない旨の回答を出したと言う。これにより、LOT機はロシアを迂回し、トルコ、カフカス諸国上空を飛行せざるを得なくなり、ルフトハンザ、SAS、KLMなどの競合他社と比較してペキンまでの飛行時間が2−3時間も延びる(全行程11−12時間)こととなった。2.の要因が加わることにより、就航直前から同便の採算確保は絶望的となった。

同紙は非公式情報として、今回のペキン線開設失敗のより、LOT社が蒙った損失額は240万ズオチから480万ズオチ(約1億800万円から2億1600万円)ほどと見込まれるとしている。
ポーランド企業が将来、強豪の仲間入りをするためには、国外マーケットへの進出が必要不可欠である。現在までのところ、国外マーケットで成功しているポーランド企業は少なく、むしろ、失敗例、苦戦している例のほうが多く聞かれる(ポーランド企業のFDIについては将来の再論材料としたい)。

LOT社のアジアへの大冒険は、「勉強代」としては高く付いたが、同社にとって将来の戦略を練る上での貴重な経験を残したのかも知れない。